ツールの紹介・使用の注意点
当研究会の複言語・複文化ワークショップでは、当研究会で開発した「言語マップ」と「関係性マップ」、ワークショップ実施方法を開発した「言語ポートレート」の3つのツールを使って活動しています。タイだけでなく世界各地の現場でもお使いいただけます。台紙は、以下のリンクからダウンロードが可能です。ぜひいろいろな現場でご使用ください。
<注意点>
・使用した結果について発表をしたり論文で扱ったりする場合には、言語マップ及び、関係性マップは当研究会のツールが原案であることを必ず明記してください。
・これらを元にして現場に合わせた改変版を作成して使用する場合にも、原案は当研究会のものであることをどこかに明記してください。
ご相談があれば、「Mail~お問い合わせ~」からご連絡ください。追って、メールでお返事いたします。
言語マップ(2023年7月25日更新)
言語マップは自分の言語経験を描くものです。自分の言語使用経験を可視化し、複言語・複文化を生きる互いの経験を共有することを目的にJMHERATで開発しました。
★縦軸
・場面欄には,親・きょうだい・恋人(または配偶者)・子供・学校/職場・友人・外(環境)・情報という欄に加え、自分にとって大切な言語使用の相手や場面が描けるように一番下に自由欄を設けてあります。例えば、アニメ・音楽などを加え、その状況での言語使用を描くことができます。
★ 横軸
・横軸は子どもの場合、成⻑の時間軸を表します。
・何歳から書き始めるかは、各個人にお任せしていますが、0歳から描き始める場合が多いです。子どもの場合は、覚えていない時期のことは親に聞きながら作成するといいと思います。高齢の大人の場合、日本を出て移動した時期から描く人もいますが、日本国内の移動経験や異文化体験がある人はその時期から描いています。
・なお、この時間軸を正確なバランスで描く必要はありません。自分にとってそれほど重要でないと感じる時代は短くまとめて描き、「今」が大切という場合には最近の時代を長めにとって描き表す人もいます。作成者の主観で作成してください。
★色
・その相手・状況における使用言語を色で表します。ピンクを日本語であることは統一し、青色を現地語、緑色を英語、その他の言語を黄色やオレンジ色で表します。
・下の例でわかるように、時間の流れと共に言語使用の増減に変化がある場合は、それをななめに表すこともできます。
・色紙をこのサイズに合わせた帯状に切り取って準備しておくと、便利です。できるだけ鮮明な色味のものを選択すると、全体で眺めたときに見やすいです。
★「大変/幸せ」シール
・ワークショップでは最後に、自身の言語経験を振り返る手助けとして、大変だった時期や幸せを感じた時期に「大変/幸せ」シール(矢印型ポストイット)を貼ります。時間に制限のあるワークショップ活動では、このシールを中心に語ってもらうことができます。
関係性マップ(2023年7月25日更新)
関係性マップは言語マップ活動と組み合わせて実施するツールとして当研究会が開発したものです。言語マップでは描ききれなかった、周囲の人間との関係性を描くことができ、その人の言語体験を人やグループとの関係性の視点で見直すことができます。また、ことばは関係性の中で育まれると言う観点でことばの発達と成長を考える視点を持つことができます。この視点は特に子どもの言語発達を考える上で重要です。
このマップは言語マップで描いた言語経験の歴史を、ある時点で切り取って描くことになるので、様々な時点のマップを描くことで言語体験をより詳細に見ることができます。例えば、過去と比べて使用言語は変わらなくても、誰と何のためにことばを使うかが変化した等、言語使用の中身や意味を見つめることができます。どの時点の関係性マップを描くかは、活動の目的や対象で変わるでしょう。
マップの中心には自分の名前を書きます。その外に描かれている3重の円は、内側から日常生活、週に1回程度、月に一回程度という頻度を示しています。ポストイットにグループや人名を書き、実際に会う頻度を表す位置にそれを貼っていきます。言語マップ同様、言語と人を色で示します。
★ ポストイットの色
・ポストイットに書かれた人が普段何語を使うのか、で選択
そして、その人との心の繋がりの強さをマーカーの線の太さと種類で表します。
★ マーカーの色
・自分とその人は何語でコミュニケーションをとっているのか、で選択
★ 線の太さ・種類:人との心の繋がりの度合い
→強い場合・・・実線、太い
→弱い場合・・・点線、細い
※自分にとって特に大事な人や、「こんな人がいたらいいな」と自分が望む人物を、黒い点線で囲うなどして表すこともできます。ワークショップ活動の目的に合わせて活用していきます。
関係性マップ台紙リンク: 一般用・子ども用 共通
言語ポートレート(2023年7月27日更新)
言語ポートレート(Krumm, 2011; Busch, 2012; 姫田, 2016)をもとに、当研究会でワークショップ実施方法を開発したものです。自分のからだの中にどんな言葉がどう存在するのかを表現します。ワークショップでは作成例をいくつか見せ、描く際のヒントにします(見せる例の影響が強く出ることもあるので、見せる例や見せ方には注意が必要です)。よく描かれるのは、頭で考える言語や話す言語ですが、食べる料理によって胃を描いて色を塗るなど、子どもたちは自然に文化的な影響も書き込みます。言語別に色は分けますが、色分けすることが目的ではありません。中には色分けできないと黒く書き込む子もいます。このように言語の関係だけでなく、文化との関係や志向、そして自分の将来的見通しなども表現できる自己表現活動です。言語マップや関係性マップと比べて、年少者も自己表現でき、短い時間で描くことができるツールです。
参考文献
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Busch, B.(2012).The Linguistic Repertoire Revisited. Applied Linguistics, 33/5, pp.503-532. Oxford University Press.
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Krumm, H-J. (2011). Multilingualism and subjectivity: “Language portraits”, by multilingual children. In G. Zarate, D. Levy, & C, Kramsch (eds.), Handbook of multilingualism and multiculturalism (pp.101-104). Paris, France: Édition des archives contemporaines.
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姫田麻利子(2016)「言語ポートレート活動について」Études didactiques du FLE au Japon (25), pp.62-77, Peka, Association des didacticiens japonais.