タイにおける母語・継承語としての日本語教育研究会(JMHERAT)について
タイにおける母語・継承語としての日本語教育研究会
- Japanese Mother tongue and Heritage language Education and Research Association of Thailand (JMHERAT)
タイで複数の言語・文化環境で育つ子どもたちの幸せを、子どもを取り巻く全ての大人たちが、それぞれの立場から考えていくために、この会を設立しました。
私たちは、子どもにとって育成すべきことばの力を、母語・継承語の枠を越え、「自分を理解し、人を理解し、社会との関係を拓いていける力」と捉え、アイデンティディは「継承」ではなく、子どもが主体的に形成するものであると考えます。そして、子どもたちのことばと主体的アイデンティティ形成のために何をしたらいいのか、どう考えたらいいのかを学び合うために、セミナーや勉強会、ワークショップなどさまざまな活動を実施しています。
この研究会が目指すこと
タイで育つ日本に繋がる子ども達は、幼い時から様々な言語や文化を行き来しながら、複数の言語と文化で育っています。しかし、単一的な言語・文化観で育った(例えば、日本国内で日本語環境だけで育った)親も教師も、このような子どもの現実がなかなか実感としてわかりません。そこで私たちは、複数の言語と文化で育つ子ども達の現実を知ることから始め、タイで育つ日本に繋がる子ども達のことばとアイデンティティの問題を考えていきます。
そのためにまず、複言語・複文化ワークショップを開催し、単一的な言語・文化観から脱却し、子ども達の現実に添った「複言語・複文化能力観」で子どもを、そして自分を捉え直すことを目指します。そして、セミナーではその能力観に立ち、子どもの現実に添った言語・文化教育を考え、具体的に構想することを目指し、親や教師たちの実践を機関や立場を超えて共有し考察していきます。
※「複言語・複文化能力」欧州評議会言語政策局(2006)
「私たちの考える複言語・複文化能力観について」は、こちらから
歴史
2006年に、バンコクとチェンマイで働くインター校や大学の教師4人で、タイで育つ子どものことばの問題を考えるために設立。当時はタイに限らず、親も教師も、子どもの日本語教育を「国語」として捉えているのが一般的で、それが難しい子ども達には、「外国語としての日本語教育」と捉えることが主流だった。「国語」は日本という環境で生まれ日本語を自然習得した子ども達の読み書きを中心に行う教育で、「日本語教育」は母語を習得した大人を対象に発展してきた教育である。そのため、どちらも日本以外の国でことばを育む子どもには適していない。そこで、日本で育つ子どものための「国語」でもなく、大人を対象に発展してきた「日本語教育」でもない、タイで育つ「子どものための日本語教育」の在り方を考えるために設立したのがこの会である。研究会名にある「母語・継承語」は、日本国外で育つ子どものための日本語教育を考えるための観点として掲げた。
2009年から2010年は1年間活動を休止し、2011年に活動を再開。2011年から、「複言語・複文化ワークショップ」を実施。この年、「複言語・複文化」を可視化するためのツールとして「言語マップ」を開発。翌2012年には、子どもの言語発達を考えるセミナーを開催。以来、日本から招いた専門家も交えて、「複言語・複文化ワークショップ」と、子どもの成長とことばの育成を課題にしたセミナーの二つを開催することが活動の柱となった。2013年には、多様な子どもの現実を知るため、一年間対外的なイベント等を実施せず、すでに成人した子どもに対する聞き取り調査を中心に活動した。これをきっかけに、ことばだけでなく、子ども自身のアイデンティティについて考えることも、研究会の大きなテーマになった。2014年に開催したセミナーでは、複数の言語・文化環境で育つ子どものことばの成長を、他者との関係性を軸に整理するツール「関係性マップ」を開発した。2016年からセミナーは「実践共有セミナー」として定着し、現在は、毎年8月の「複言語・複文化ワークショップ」、毎年3月の「実践共有セミナー」を活動の柱としつつ、学生会や子ども会など、子どもを対象としたワークショップや、親を対象としたワークショップ、保護者セミナーなどを開催している。
沿革
2006年 設立
12月