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複数言語とともに生きる3人の語りの先に見えてくるもの(202308WS10)

第10回複言語・複文化ワークショップ

マップを描き、マップで語る 私たちの言語・文化体験 

ー親と子どもと教師たちー

複言語・複文化で生きる3名の語りから


2023年8月20日(日)開催された第10回複言語・複文化ワークショップの2回目の報告記事です。今回の報告では全体に話を共有してくれた、タイの大学に在籍している日本人学生のIさん、日本人とタイ人のご両親をもつ学生のHさん、そして、日本人家族の母親のKさんの語りをご紹介します。複言語・複文化で生きるIさん、Hさん、Kさんは、どのような体験をしてきたのでしょうか?


<Iさんの背景>

・母:日本国籍 / 父:日本国籍

・タイの大学生



Iさんの言語マップ


Iさんの関係性マップ

<Iさんの話のポイント>

自分で言語環境を選ぶこと ご家族の仕事の関係で、7歳からタイに住むことになったというIさん。ご両親ともに日本人で、高校までは日本人学校に通い、生活で使う言語はほとんどが日本語だったそうです。そんなIさんが今勉学に励んでいるのは、タイの大学。同じような環境で育ってきたIさんのお兄さんは日本で生活しているといいます。Iさんにも日本の大学に進学するという道もあったはずですが、Iさんはタイの大学に進学する道を選びました。当然、今までと周りの言語環境ががらりと変わり、戸惑うことや、もどかしさもたくさんあったといいます。

伝えられない感情 それまでと全く違う言語環境で生活していく中で、Iさんが特に大変だったと語るのが、友達との会話で「自分の感情をうまく伝えられないこと」でした。日本語なら表現できる微妙な感情の機微を、タイ語ではどう言えばいいのかわからず、相手に自分の気持ちが伝わらないということが、大きなストレスだったといいます。もしかしたらこれは、Iさんが年齢的にも、自分の気持ちを客観的に見て、それを細やかに言語化できる能力があるからこその葛藤だったのかもしれません。自分の言語能力に不足を感じ、それによるフラストレーションも強く、大学に入ってすぐのころは「一刻も早く家に帰りたい」と思う日々だったそうです。しかし、そんな大学生活も1年が過ぎ、2年生になった今、Iさんは毎日の学生生活を幸せに過ごしていると言います。言語マップにも「毎日多文化に触れられて、知らないことを知るのが楽しい」とありますが、関係性マップに見られるタイ語を話す友達との太い線から、それが垣間見えます。

 

<Hさんの背景>

・母:タイ国籍 / 父:日本国籍

・タイの大学生


Hさんの言語マップ


Hさんの関係性マップ

<Hさんの話のポイント>

言語の変化による親との関係性の変化

 Hさんは、日本人とタイ人のご両親を持つダブルの学生です。しかし、お父さんはタイ語が堪能であったこともあり、家庭内言語はタイ語でした。それが、Hさんが日本語学習を始めたことにより、お父さんとの会話の中にも日本語が現れるようになったそうです。この時、Hさんは、お父さんと日本語を話すことで、お父さんとの関係性に変化を感じたといいます。言語学習の大変さを感じる一方で、お父さんと日本語で話すことに喜びを感じていることが、言語マップにも示されています。

 Hさんの語りからは、「関係性がことばを育む」ということと同時に、「ことばが関係性を育む」ということがとてもよく伝わってきました。


移動経験がなくても……

 Hさんは、国際結婚家庭の子どもですが、移動経験はありません。家庭内外でタイ語を主に使ってきたという側面からも、言語選択には大きな葛藤はなかったように見えます。しかし、語りを聞くと、関係性の中でことばを学んでいることや、ことばを通して世界を広げていることなど、複言語・複文化で生きているということがよくわかります。Hさんの語りを通して、移動を経験した人だけでなく、私たちも含めたすべての人が、複言語・複文化を生きる主体なのだということを学びました。

 

<Kさんの背景> ・日本人家族の母親

・お子さんをインター校に通学させている


Kさんの言語マップ


Kさんの関係性マップ

<Kさんの話のポイント>

子どもの学習環境の変化によって親が言語に苦労する

ご夫婦ともに日本人で、夫の仕事の関係で3人の娘さんとタイに来ることになったKさん。それまではずっと日本語だけの生活環境だった上、タイに来た当初もコロナで外出制限があったため、タイ語や英語に触れる機会も少なく、情報の多くは日本語で得ていたそうです。その後、娘さんのインター校編入やバイリンガルの幼稚園入学をきっかけに、学校との英語のやりとりが必要となり、言葉によるコミュニケーションの困難さを感じたと言います。さらに、娘さんの学校の勉強をフォローするにも英語の壁があり、大変苦労したそうです。親の移動は、子どもたちが苦労するというケースだけでなく、子どもの学校の編入学、進学などの学習環境の変化によって、親も言語に苦労することもあるのだということを学びました。


今、近くにいてくれたらいいなと思うのは、複数言語が自由に使える人

 その後、タイ語を学びはじめると、今まで日本語だけの環境だったところから、徐々に生活の中に英語やタイ語が入ってくるようになったそうです。Kさんは、もちろんまだ言語面で苦労はあるものの、英語やタイ語でコミュニケーションができる楽しさを感じ始めたそうです。そして、関係性マップの中に、自分の関係の中にほしい人として「複数言語が自由に使える人」を描いていることからも分かるように、複言語環境を肯定的に考えていることが分かります。











今回の記事では、今回のワークショップで登壇し、発表してくださった、Iさん、Hさん、Kさんのストーリーをご紹介いたしました。Iさん、Hさん、Kさんは、それぞれ異なった複言語・複文化の立場や背景を持つ参加者の方々です。立場は違えど、複言語・複文化で生きる意味や葛藤があり、それらについて考えさせてくれる、とても貴重なお話だったと思います。このように、今回のワークショップは、子ども、親、教師といった複数の立場の方が一緒に活動する会でしたので、異なった背景を持つ方のお話しを聞くことで、参加者の方同士にも新しい発見があったのではないでしょうか。


また、今回のワークショップは、3年ぶりに対面での開催だったので、心理的な距離感も縮まり、和気藹々とした温かい雰囲気でワークショップを終えることができました。


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