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インター校「映像から学ぶ日本語」、継承語教室「対話を起こし、体験を繋げる幼児部の活動報告」(201803S14)

みつめよう子どもの姿、考えよう子どもの現実


 子どもを育てる、ことばを育てる

―複数言語環境で育つ子どもが自信を持って生きるための言語活動実践―



2018年3月18日に終了した第14回セミナーの2回目の報告をします。今回は、第2部の「言語活動実践報告―体験とことば―」の発表概要、質疑応答を掲載します。



●インター校高校部の実践


「映像から学ぶ日本語」 大倉尚巳(NIST International School)

◆発表概要

自己表現としての言語力に必要な要素の一つとして、言葉を具象化させる想像力が挙げられます。この発表では、文学の授業で、想像力を表現する土台としての「映像」を追求し、生徒の探究心を育むとともに、語彙力や読解力へと繋がる可能性を検討しました。  文学の授業では、明示的なメッセージの読み解きだけではなく、暗示的なメッセージの解釈こそが重要ですが、解釈というのはその生徒が経験してきたことや感性・感覚で違います。この解釈を育てることに力を入れないと、文学としての役割ではないし、自分の教師としての役割でもないと思っています。  まず、授業ではカフカの「変身」を読み、小説に書かれているヒントをピックアップしながら、登場人物や家を絵で表現してもらいました。想像で描くのではなく作品の中からエビデンスを拾って描くことにより、生徒達の頭の中で物語が広がっていきます。ただ、絵では動作を表現することができません。そこで、次に映像化することにしました。映像化のためには小説を解釈することが必要であり、解釈するためのプロセスを繰り返すことによって作品の理解を深めることができました。

◆当日配布資料はコチラ



◆学生作成映像説明

「変身」を映像化した作品。シューレアリズムの作品を表現するために登場人物にシルバニアファミリーを使ったり、人間の薄情さを表すために静止画像をぎこちなく動かしたり、登場人物間の優劣を表すためにローアングルで撮影したり、主要なテーマである人間の負の側面をほのめかすために、照明で登場人物の表情に影をつけたり、グレーゴルの主観を表すために音楽を途中で曇った音にするなど、ひとつひとつに意味があり、意図があって作られた映像です。


「変身」というテーマの完全なオリジナル作品。原作では存在意義がテーマとして扱われていますが、生徒たちにとっての存在意義は、原作と違います。見た目が変わってしまったために友達の輪に入っていけない自分が存在している意義とはなにか、ということが彼女達にとってのリアルです。最後のシーンでは二人の配置の高さが異なっています。これは、Aはまだ自分の存在価値をSの存在価値より上だと思っていることを表しています。この終わりの場面は何も解決しておらず、不幸でも幸福でもない「変身」と同様に微妙なやりきれない気持ちを表しています。このように、作品の世界観をそのままオリジナル作品で表しています。


 

● 親が創る日本語教室の実践


「対話を起こし、体験を繋げる幼児部の活動報告」 ケウホワサイ美穂子・高見志津・青木有里香・番場亮・鵜野晋(バイリンガルの子どものための日本語教室)

◆発表概要


 この教室では、子供たちが自分に自信を持って他者との関係を築いていける能力を目指し、子どもの「興味」、「関心」のあることを「体験」と「関係性」の中で育てることを活動方針としています。子どもたちの言語能力や環境の異なりなど、様々な差異そのものを資源と考え、子どもにとって意味のある体験とは何かを考えながら、テーマ型学習を実践しています。  幼児部の活動は①読み聞かせ②工作③ダンス・歌の3つの活動で構成しています。しかし、これまでこの3つの活動に関連はなく、バラバラでした。そこで今年は絵本「ねこのピート」を軸に、3つの活動を全て関連付けました。家での宿題も「ねこのピート」を基に手作りしました。この本は「読み手」「聞き手」に分かれず、子供たちとやり取りし、本の中の歌を一緒に歌いながら話を進めていく体験型の絵本です。活動は、ねこのピートの世界を【絵本で聞く→工作で体験→歌やダンスで楽しむ→家に帰って宿題で再度自分のピートを表現→次回の活動の時にそれらを繋げる→それを繰り返す】の流れで行いました。本との関連性をもたせ(文脈化)、やり取りを重視し、一貫性をもたせることができました。この教室では親が教師役を務めますが、全ての活動が繋がり、家と教室が繋がることで、教師自身が活動を楽しみ、アイデアもどんどん出てきました。

◆当日配布資料はコチラ



◆幼児部自作の課題シート


ボタン」いろいろなボタンを描いてみたよ












「よっつ」よっつあるよ。てんとう虫は4匹。黒い点がよっつ!





















 
第2部 質疑応答

質問1:バイリンガル教室はなぜ補習校登録をしなかったのでしょうか。

  • 回答(深澤):補習校登録をすると日本から先生が来るなどの支援がありますが、それはいらない。日本に帰ることを前提とした補習校と自分たちの教室は明らかに違う場なんだ、自分たちはここで生きていく子どもたちの教室を作っていくんだ。そういう意思の表明でした。(深澤はバイリンガル教室のアドバイザー。補習校登録をしないと決めた時の状況を知っているため、親に代わり返答)

質問2:子どもの進路に迷っています。映像を作った学生の日本語の能力はすごく高いですが、どのくらいの時期にNISTに編入したのでしょうか。また、学校以外でも日本語の勉強をしているのでしょうか。

  • 回答(大倉):シルバニアのグループはそれぞれ入学時期がバラバラでした。エレメンタリーの時に入った子、去年入ってきた子。中学校ぐらいから入ってきた子がなどです。NISTに入る前の日本語使用経験もばらばらです。NIST学校外で日本語の勉強は基本的にしていないようですが、家庭教師などでサポートしてもらう生徒はいます。エレメンタリーの頃はそういうのはよくあるんですが、中学高校になるにつれてほとんどNISTの授業だけでやっていけるようになっています。

質問3:10歳と7歳の娘はイタリア生まれイタリア育ちです。イタリアではイタリア語で遊びイタリア語で喧嘩していました。半年前バンコクに移動しましたが、イタリア語をほぼ全て忘れて今は英語で遊んでいます。心配なことは、幼児期からどの文化でも100%ではない。日本人の両親で家で日本語でも日本語は100%にならない。どれも100%ではない。文化やアイデンティティですがどこにも帰属できない。今後どうやって彼女たちの自信を育てていけばいいのでしょうか。学校で静かにしているのも言葉の問題ではなく自信がないのではと思います。どういうことをしたら自信を持って生きていけるのでしょうか。帰属意識が持てない中でどこに拠り所を求めたらいいですか。アドバイスが欲しいです。

  • 回答(深澤):この質問は、セミナー全体のテーマです。後半はそれについて話し合っていきたいと思います。

 

次回は第1部と第2部のまとめの報告を掲載いたします。


(JMHERAT運営委員)


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