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香港で子どもを育てる我が家の言語政策―日本語・日本文化に拘った私と拘らなかった夫―(202204セミナー18)

JMHERAT 第18回セミナー

親と子の言語政策 ファミリー・ランゲージ・ポリシー


2022年4月2日(土)に開催した第18回セミナーの4回目の報告です。最終回となる今回は三つの発表のうち、親の言語政策についての発表を掲載します。

前回までの記事

・終了報告はこちら

・報告①「Family Language Policyとは」はこちら

・報告②「タイで子どもを育てる家族の言語政策―子どもの学校選択に関するアンケート調査から―」はこちら

・報告③「タイで育つ子どもの言語政策―子どものエージェンシーに注目して―」はこちら

 今回のセミナー三つ目となる発表では、まず、香港生まれ・香港育ちの子どもを持つ日本人家族の言語政策として、堀内さんがご自身の子育て経験について発表し、後半は堀内さんにインタビュー調査を行った調査チームが堀内家のFLPに関しての考察を述べました。


 堀内さんのご発表では、夫婦間の言語イデオロギーに対する考えの違いや、そこから生じた子どもの学校選択の問題、それをどのように合意して乗り越えていったかなど、ご自身の解釈や振り返りを交えながらお話をしてくださいました。堀内さんが持っていた「国語の教科書が大切だ」という強い思いは、文化の継承や国語教科への拘りではなく、堀内さん自身が読んだことのある国語の教科書の話や自分が楽しいと感じた行事を子どもにも味わってほしいという思いでした。自分の記憶を子どもと共有する体験を通して「親子の絆を感じたい」という希望があったことに気づいたそうです。また、堀内さんが本研究会の親子ワークショップに参加した時には、子ども自身の言語認識を知ることができ、子どもの持つ「ことばの力全体」を知り、それぞれの言葉は子どもの「言語レパートリー」の中の1つなのだという気づきがあったということでした。


 続いて、堀内さんに複数回にわたりインタビューを行った運営委員の調査チームが、FLPの観点から堀内さんの語りを分析した結果と調査者自身のFLPへの気づきについて発表しました。


今回、堀内さんへのインタビューをしながら、親として共感できることが多く、同じく国外で子どもを育てる親である調査チームメンバー自身のFLPの振り返りにもつながりました。調査チーム自身も、家族の過去の経験と記憶の再構築ができ、自分の家族のFLPへの新たな気づきを得ました。また、調査を始める前は、FLPを決めるのは「親」であると思います。でも、親子ワークショップで言語ポートレートを親子で描き、意識的に親子で言語を考える時間を過ごすような活動をすることによって、堀内さんは子どもの視点から堀内家の言語政策を捉え直していました。つまり、このような親子の活動をすることによって、「親の言語政策/子どもの言語政策」であったものが、子どもの視点も含まれた真の意味での「家族の言語政策」となっていくことを感じました。


発表スライドは以下の「発表スライド」をクリックすると、ご覧いただけます。

 

「香港で子どもを育てる我が家の言語政策―日本語・日本文化に拘った私と拘らなかった夫―」

 事例報告者:堀内美穂子(保護者、日本語教師、補習校教員)


「インタビューから見えた堀内家のFLP」

 調査チーム:

  藤井瑞葉(保護者、JMHERAT)

  ツムサターン真希子(保護者、JMHERAT)

  深澤伸子(JMHERAT代表)

 


本発表に対する、真嶋潤子氏(大阪大学名誉教授、ケルン大学客員研究員)からのセミナー当日のコメントの一部をご紹介します。


選択肢の多い環境

香港での子育て移動されたご家庭の親のこだわりと、それにこだわらない旦那さんという比較をしながら、自分を見つめ直すということで、非常に綺麗にまとめてくださって、わかりやすく伺っていました。

香港は非常に特殊なところですよね。バンコクも学校の選択肢が複数あるけれども、香港はもっとたくさんあるということで、日本語を母語や継承語として学ぶ人たちにとっては非常に恵まれた環境でもあり、悩ましいところでもあろうかと思います。


親子の体験の共有―国語の教科書

国語の教科書へのこだわりということの解釈も非常に誠実に説明してくださっていました。確かに日本の文化が反映された物語文を異国の環境の違うところで教えるというのは難しいとは思いますが、ご自身の小学校時代の温かい思い出を子どもと共有したい、あるいはそれを伝えたいという思いは、やはり大事だと思います。それこそが次の世代に伝えたいものであり、かつ、教室で担任の先生がなかなか深く教えられない部分で、親ならではというところなのだろうなと思いました。

今回のセミナー全体に対するコメント

このセミナーは、最終的には結構参加者がいらっしゃると思うんですが、参加者募集の途中の段階では参加者があまり多くないと伺っていました。どうしてかなと思っていたんです。JMHERATの活動が始まった頃は、海外で子育てをする不安を強くお持ちの保護者の方が多く知識もあまりなく、「経験談を知りたい」ということで、この会では言語マップや関係性マップ、言語ポートレートを使ったワークショップをずっと繰り返してこられて、非常にそれが広がって、反響もあったんですね。それで知識が得られて、充足感があったので、もしかしたら「じゃあもういいや」って思われた方も多いのかなと思いました。今日のご発表の中でも、孤立感が軽減しているという指摘があったと思うんですが、そういうことを考えながら伺っておりました。


それともう一つ。FLPには、見えるFLPと見えないFLP、つまり、明示的に「こうします」というふうに目に見えるものと、暗示的に、無意識にしていることもあります。今回の発表を聞いて、これまであまり見えてこなかった理由や要因、それから当事者の気づき、そういう部分がすごくあったと思うので、最終的に当事者の子どもたちに寄り添った営みができる方向に行くんじゃないかなと思って伺っておりました。


昨年に引き続きオンラインセミナーとなった第18回セミナーを4回にわたり報告してきました。

今回は、本研究会運営委員がセミナー運営だけでなく、調査・発表も行うという初めての試みでした。チームに分かれ、親へのインタビュー調査、子どもへのインタビュー調査、親への大規模調査を実施し、その結果をFLPに視座を置いて読み解いていきました。FLPの概念を通して考察したことにより、家族の言語政策の信念や家庭内言語実践、言語管理を包括的に見ることができ、各家族や子どもの思いの理解が深まりました。開催にあたり、手厚くサポートくださった真嶋先生、調査に協力してくださった皆様、そして世界各地から(オンデマンド視聴も含めて)ご参加くださった皆様、ありがとうございました。


さて、研究会としての次の活動は第9回複言語・複文化ワークショップです。

今年は例年と異なり、世界各国で子どものための継承語教室などを運営している方々を対象にした複言語・複文化ワークショップ(全4回構成)を行います。世界の皆様と、本研究会のツールを通して、実践者としての語り合いや学び合いができることを非常に期待しています。


タイにおける母語・継承語としての日本語教育研究会(JMHERAT)運営委員

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