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関係性マップ実践報告「関係性マップから見えてきた生徒たちの「世界」」「私と子どものことばの環境を振り返る」(202304セミナー19)

JMHERAT第19回セミナー


複言語・複文化ワークショップで何が育まれるか

ー各地の実践報告からー


2023年4月2日(日)に開催した第19回セミナーの3回目の報告です。今回のセミナーでは、昨年度に行った世界各地の運営者対象の第9回複言語・複文化ワークショップに参加された2名の実践者に、各自の現場で実際に行った、関係性マップを用いた複言語・複文化ワークショップについて発表をしていただきました。今回は、各発表について報告します。


前回までの記事

・終了報告はこちら

・報告①「複言語・複文化能力とは?」はこちら

・報告②「JMHERAT実践報告①②」はこちら

 

関係性マップ実践報告①

「関係性マップから見えてきた生徒たちの「世界」」

発表者:ブラジル学校エスコーラネクター* 蜂須賀真希子(日本)


 発表者である蜂須賀さんには愛知県のブラジル学校エスコーラ・ネクターで、生徒対象に行った複言語・複文化ワークショップの実践について発表していただきました。蜂須賀さんは「子どもたちがどんな「世界」に生きているのか知りたいと思った」こと、そして、「子どもたち自身が複言語・複文化状態にある自分をポジティブに捉え、将来を描くきっかけにしてくれたらと思った」という動機で、当研究会のツール「関係性マップ」と、そのマップをアレンジした「なりたい私マップ」と「好きなものマップ」を描くという実践をされました。中高生クラスでの実際の実践の流れについては、発表資料のスライド6を、小学生クラスでの実際の実践の流れや作成された関係性マップについては、発表資料のスライド19〜24をご参照ください。以下には、ご発表内容の一部をご紹介します。

*発表当時のご所属先による。


生徒たちの「世界」

 ブラジル学校の生徒たちは、日本にいながら、ほとんどがポルトガル語・ブラジル文化社会で生きているということが見えてきました。日本社会との接触はほぼなく、それは小学生から高校生へと年齢や学年が上がっても変わらないようです。また、「家族」と「学校」という、ごく限られた人間関係の中で生きていることも見えてきました。人間関係や行動範囲の狭さが、自分の将来を思い描く材料の少なさにつながっているのではないかと述べられました。


そして、今回のセミナーの参加者に対し、「それぞれのコミュニティーの中で、子どもたちに日本社会と関わる大人の姿を見せてあげてほしい」、「狭い世界で生きる子どもたちにとって貴重な機会となりうる交流を、ぜひ積極的に行ってほしい」と呼びかけられました。



 

関係性マップ実践報告②

「私と子どものことばの環境を振り返る〜関係性マップをツールに〜」

発表者:オンライン漢字教室 鈴木麻友(フランス)


 フランスにルーツを持つ二児の親でもある鈴木さんは、2021年から、主に未就学児を対象としたオンラインの漢字教室「オンライン漢字会」を開催されています。今回は、この「オンライン漢字会」に参加している保護者との交流会で行われた、少しアレンジされた「関係性マップ」の実践について報告していただきました。鈴木さんの実践したワークショップ「我が子のことばの環境を振り返る」は全3回の構成となっており、1・2回目(以下、「WS①②」と表記)は保護者のみ、3回目(以下、「WS③」と表記)は親子での活動でした。WS①②の詳しい活動内容や目的については、発表資料のスライド5(4ページ)を、WS③の実践の流れや、実際のマップの様子については、発表資料のスライド12〜15(11〜14ページ)をご参照ください。以下には、ご発表内容の一部をご紹介します。



子どもの現実を理解し、親の役割を再認識できたワークショップ


 この3回にわたったワークショップを通して、親自身が自分のマップを作成してから子どものマップを作成するという順番にしたことにより、「親/子」「〇〇語の母語話者/非母語話者」というような区分ではなく、同じ「複言語人」としての視点の芽生えが見られたようです。また、今の子どもたちは一人で出歩くことも減り、SNSやYouTube、Netflixなど、自分の興味のあるものに浸る世界を選ぶことができ、“偶然の出会い”が非常に少なくなっています。だからこそ、親が意識的に子どもたちの世界を広げること、世界を広げる姿勢を見せることが必要ではないかと述べられました。また、海外でのマルチリンガル育児で不安や心配を抱えている保護者に向けた、親子の語りや理解の機会、親の不安を軽減するような機会を作る必要性も再認識したワークショップとなったようです。

 最後に、複言語・複文化の世界で生きている保護者たちに対し、立ち止まって考える機会を提供することや、悩みを相談したり、新たな情報や視点を得たり、自分の「当たり前」を疑ったりする機会になる場を作ることが、不安を抱えている親たちの複言語・複文化育児の支えになると感じたと話されました。その中で、関係性マップは、自分の現状を可視化する、他人との話し合いを深める、自分の思考を言語化する、そして、今後の可能性を考えるツールとして、有効だと感じたそうです。今後の交流会でも、子どもの言語環境・言語教育のことだけではなく、親が自分自身のことを考える機会を盛り込んでいきたいと述べられました。



お二人のご発表から、「子どもの世界を”狭い”と捉えるべきかどうか」等、描かれた関係性マップをどのように捉えるべきかや、関係性マップには人以外にSNSやYouTubeなども描き表してもいいのではないかなど、議論が起こり、当研究会としての姿勢について改めて考える必要があると気づきました。このツールは、各自の現場に合わせて自由にアレンジしてご使用いただけますが、大切なことは、このツールを使用したワークショップを通して、実践者は何が見たいのか、何が知りたいのか、対象者にどのような気づきが起こることを願うのか等、目的意識を持ってワークショップを行うことだと考えます。


今後は、昨年度の運営者向けワークショップにご参加いただいた方だけでなく、これから複言語・複文化ワークショップをご自身の現場で実践してみようと思われる方もいらっしゃるでしょう。当研究会としての使用方法・台紙等についてはこちらをご覧ください。またワークショップ実施に関するご相談は、当研究会のお問い合わせよりご連絡ください。


次回は第19回セミナー最後の報告となります。コメンテーターによるコメントを中心にご紹介いたします。

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