第9回複言語・複文化ワークショップ<運営者向けワークショップ>
自分の居住地で、グループで、教室で
「複言語・複文化ワークショップ」を開いてみませんか!
2022年8月21日(日)から10月9日(日)にかけて全4回にわたり開催した第9回複言語・複文化ワークショップの1回目の報告です。今回の記事では、複言語・複文化ワークショップの「運営者向けワークショップ」1日目(8月21日)のワークショップの報告をいたします。本ワークショップは運営者を対象としたワークショップですが、今回参加された方々には、一参加者としてツールを使ってみた「参加者としての視点」と、実際にそのツールを使ってワークショップを運営することを想定した場合の「運営者としての視点」の二つの視点で活動を振り返り、気づきシートを書いていただきましたので、その振り返りの抜粋とワークショップ参加者から得られた疑問や質問に対する回答のまとめを掲載いたします。
前回までの記事
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4回シリーズとなった経緯
当研究会では、これまで複数の言語と文化で育つ子どもの現実を理解するための「複言語・複文化ワークショップ」を開催してきました。これまでのワークショップでは、複言語・複文化の当事者である子どもや大人に自分の現実を語ってもらうための3つのツール(言語マップ、関係性マップ、言語ポートレート)を開発し、活用してきました。このような経験を用いて、今回の「運営者向け複言語・複文化ワークショップ」では、1~3回目にこの3つのツール体験を行い、最終4回目に自分が実施したいワークショップの対象者向けに、これらのツールを活用したワークショップの方法を検討することにしました。
1日目:言語マップ体験
今回のワークショップでは言語マップ体験を行いました。はじめに、これまでの複言語・複文化ワークショップの変遷について説明し、今回のワークショップで使用する3つのツールについて紹介しました。その後、グループに分かれて言語マップを作成し、描いた言語マップについて語る活動を行いました。その体験をもとに言語マップに対する「参加者としての視点からの気づき」と「運営者としての視点からの気づき」についてグループごとに話し合いをしました。どのグループでも活発な議論が行われ、言語マップの使い方について様々な立場からの意見が出てきました。改めてツールの使い方や形式について考える機会となりました。
ワークショップ活動の流れ
| 内容 |
14:00 | はじめに ・本日のワークショップの趣旨の紹介 ・企画チームの紹介 ・参加者の紹介 ・これまでの複言語・複文化ワークショップの歴史について ・3つのツール(言語マップ、関係性マップ、言語ポートレート)の紹介 |
14:35 | グループワーク① ・参加者の自己紹介 ・言語マップの作成 ・言語マップの作成に関する質疑応答 ・作成した言語マップを語る |
15:35 | 休憩 |
15:45 | グループワーク② ・参加者としての視点での振り返り ・運営者としての視点での振り返り |
16:20 | まとめと連絡 |
16:25 | 終了 |
16:30 | 懇親会(希望者のみ) |
1回目の終了後、オンラインで共有した「気づきシート」に参加者が各自、「参加者としての視点」と「運営者としての視点」を記入しました。その気づきの一部をご紹介いたします。
参加者としての視点
色々な国の言語背景が違う方々の言語マップを垣間見れて、興味深かった。自分で言語マップを記入することにより、きれいに区切って色分けするのは難しい。重ね塗りを利用して、いくつもの言語が重なり合っている(一つの言語を維持しながら、加えられていく、その後相互に関係しあっている)というのを改めて感じた。また、大変・幸せ印は、やはり環境の変化に大きく左右されているということに気づいた。(スペイン)
量や割合を意識すると視覚的にどれぐらいどの言語を使っているかよくわかる。人と場面が一緒になっているので重なりも多く少しややこしかった。色々な人が色々な国で色々な言語体験があって、それを聞くのがおもしろかった。(オーストラリア)
親の立場として長男の言語マップを作成しながら、自分のいままでの海外での日本語子育てに対する自分の思いを振り返ることが出来た。長男のマップではありながら、随分と自分の気持ちが入り込んでしまったことに、他の参加者さんと気がついた。色鉛筆でグラフを塗ることで、ピンクを濃くしたり、薄くしたり、日本語の接触量や質に変化を出せるのができたのがよかったです。他の参加者さんと運営委員さんの子育てヒストリーがお聞き出来て、とてもとても興味深かったです。(アメリカ)
運営者としての視点
各言語を表現する色を運営側が決めておくか、おかないか。WSの目的として、個人のふりかえりに重きをおくなら、それぞれの感性を大切に(言語と、その言語をイメージする色が人によってちがうかもというのは、初めて知った)好きな色でもいい。一方で誰かとシェアをする(親子で見比べるなど)なら、ある程度色は決めた方がいいか?(日本)
マップを書く目的を運営者としてしっかり設定する必要がある。最終的に発表して聞いてもらうことが目的なのか、 自分の経験を整理することが目的なのか(個人的にはこちらに重きを置きたい)「場面」の分け方を対象によって変える。(家庭環境、ジェンダー問題)重要な場面は人によるので、個人が選んで書ける方がいいと思う。(フランス)
言語マップに没頭すると、辛かったことなど、人生のあれやこれやも思い出されてくるので、参加者によっては、かなり苦しい作業になる可能性もあると感じた。それを見越して、参加者へのインストラクションの中に、そのような可能性にも触れた上で、参加者と運営側の両方が協力しながら、そういう場合に備える方法も考えておいた方が良いかもしれないと思った。(フランス)
参加者の気づきや質問に対する振り返り
今回のワークショップを通して、参加者からいくつかの気づきや質問が挙げられました。それらをもとに、「言語マップの特徴」「言語マップの形式」「言語マップの書き方」「複言語・服文化の表し方」「対話の重要性」の5つの視点から振り返りを行いました。
1)言語マップの特徴
まず一つ目の質問として「言語マップと他のツールの大きな違いは何か?」という質問が挙げられました。言語マップの特徴は、時間軸が表現できることです。他のツールの場合は時間軸を自由に表現できず、どこかの時点を選択して表現しなければいけません。ですので、言語マップを使うことで、人生の流れに沿って自分の言語変遷を可視化することができます。
2)言語マップの形式
言語マップの色分けに関する質問をいただきました。当研究会では普段より言語マップを作成する時は、基本的な色分けとして日本語がピンク、タイ語が水色、英語が緑色と決めています。このように言語による色の指定を設けている理由は、ワークショップでの共有のしやすさを重視しているためです。共有することを念頭におくと、何らかの統一性があった方がわかりやすいという視点から色の指定を行っています。しかし、このような形式は目的によって変えても良いと思います。小規模での言語経験の振り返りとして活用するのであれば、色の指定を外して自由に作成することも可能です。
3)言語マップの書き方
言語マップの基本的な形式は、縦軸が場面で横軸が時間軸です。どちらの軸の項目も個人で設定できるわけなのですが、参加者の方より「横軸は言語を基準とした時間軸の区切り(例:国境移動)を書かなければいけないのか?」というご質問をいただきました。基本的に、時間軸の書き方は、国境移動に限定せず、その人の人生にとっての節目となる学校、結婚、出産などで区切ることも可能です。自分自身にとって転機となった出来事や、印象が強かった事柄で区切りながら、その時点での言語との関わりを思い返してみてください。
また、縦軸の場面の書き方については、「場面の幅は全て同じ幅を用いなければいけないのか?」というご質問をいただきました。基本的に言語マップの台紙は固定ですので、すべての場面の幅は一律となってしまいます。離れて暮らす親とはあまり話さない、職場が自分の生活の大半を占めるといったように、相手・場面の割合は異なるため同じ幅で表現することに違和感を持つ方がいらっしゃることも理解できますが、特に印刷した台紙を使って活動をする場合にはそれらを全て表現するのは難しいです。 そのため、言語マップで表現できない部分については他のツールと併用して表現するようにしています。
4)複言語・複文化の表し方
今回のワークショップを通して、多くの参加者が「言語」と「文化」の違いについて迷われているようでした。基本的に、言語マップの軸は「言語」ですが、言語と文化には重なる部分があるため、文化的な要素も含めて描かれる場合もあります。個人の複言語・複文化性を表現するためには、他のツールと併用する必要があると考えられます。
5)対話の重要性
実際に今回の参加者の方々もグループの参加者同士の対話を楽しみながら活動に参加していただいたように、言語マップのワークショップでは、語り合いの時間を大切にしています。言語マップの作成は一人で行うものではありますが、他者に自分のマップについて話したり、他者の言語マップについての語りを聞くことで自分の言語マップの理解も深まっていきます。このような点で、言語マップのワークショップは作成と対話を併せて行うことで活動に深みが出ると考えています。
今回の記事では、ワークショップを通した参加者の気づきの内容と参加者から質問があった点に対する回答を掲載しました。次回は、第9回複言語・複文化ワークショップ「運営者向けワークショップ」報告②として、関係性マップを使ったワークショップ2日目の報告をします。言語マップとはまた新しい視点での議論や気づきがありましたので、次の報告もぜひご覧ください。
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1日目言語マップ体験の記事は本ページ
2日目関係性マップ体験の記事はこちら
3日目言語ポートレート体験の記事はこちら
4日目複言語・複文化ワークショップ各自の現場への文脈化に向けての記事はこちら