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2日目|関係性マップ体験:言葉は関係性から生まれ、関係性が言葉を生む(202208-10WS09運営者向け)

第9回複言語・複文化ワークショップ<運営者向けワークショップ>


自分の居住地で、グループで、教室で

「複言語・複文化ワークショップ」を開いてみませんか!


今回の記事では、複言語・複文化ワークショップの「運営者向けワークショップ」2日目(9月4日)のワークショップの報告をいたします。2日目は、関係性マップ体験でした。ワークショップでは、自分の関係性マップと、子ども(生徒/違う時代の自分)の関係性マップの2種類のマップを描き、対話を行いました。


前回までの記事

・終了報告はこちら

・前回(1日目)の、言語マップ体験の報告はこちら

 
2日目:関係性マップ体験

 今回のワークショップでは関係性マップ体験を行いました。

 はじめに、前回の言語マップ体験を振り返りました。1日目終了後の気づきシートには質問も寄せられていたため、それへの回答を行いながら、まず最初に舘岡、三輪、深澤の3者による振り返りディスカッションをしました。

 その後、関係性マップの作成方法等について説明し、グループに分かれて、自分自身の関係性マップと子ども(生徒や違う時代の自分でも可)の関係性マップを描きました。そして、自分の描いたマップを説明し合い、WSの参加者としての視点で関係性マップの活動の感想を語り合ってから、運営者としての視点でも話し合いました。これまでの対面でのワークショップの過程と同様に、Ⅲ部にて他のグループの関係性マップを見に行く時間も設けました。


ワークショップ活動の流れ

14:00~ Ⅰ部 前回の振り返りと今回のツールについて

14:35〜 Ⅱ部 複言語・複文化WS(関係性マップ) の体験①

参加者自己紹介、

関係性マップを描く

①自分自身の関係性マップを描く

②子ども(生徒/違う時代の自分)の関係性マップを描く

15:15~ 休憩

15:20~ Ⅱ部 複言語・複文化WS (関係性マップ) の体験②

関係性マップを語る、関係性マップ体験を振り返る

16:05~ Ⅲ部 関係性マップ共有

          ・他のグループの参加者が描いた関係性マップを見る

          ・見た関係性マップについて適宜質問をする

16:20~ 全体質疑応答

16:25~ 挨拶と次回に向けて

16:30 終了

16:30~17:30 懇親会

2日目の終了後、オンラインで共有した「気づきシート」に参加者が各自、「参加者としての視点」と「運営者としての視点」を記入しました。その気づきの一部をご紹介いたします。


参加者としての視点

  • (関係性マップに)出てくる人との関係が濃いか薄いか考えることは、日々の生活や自分の社会との関係の作り方を振り返ることにつながった。

  • 自分には子どもがいないので、その代わりとしては「違う時代の自分」についてのマップを書く、というアイディアはとても良いと思った。継承日本語話者の子どもや大人は少なからず知っていても、関係性マップを書くには、当該人についてのかなり詳しい情報がないと難しいが、自分のことなら振返りやすい。

  • 当初、関係性を「(その相手、対象と)どの言語を使うか」と捉えていたので、TVやYouTubeなどのメディアもいれていた。一方通行ではあるが、それによって気づきを得たり、感動したり、心の動きがあるので、自分との関係は「ある」と思ったから。でも、みなさんとお話しする中で、関係が「ある」のではなく、関係を「維持/構築」するためにその言語を使用する相手と捉え直すと、TVやYouTubeなどは入れなくてもいいかな?と思えた。

運営者としての視点

  • 今回のマップではそれぞれの対象に対して線を一本引いているのだが、実際では関係性マップの描き手と対象が相手に対する使用言語が異なる場合もあるだろうと思う。例えば国際結婚家庭で、母親が聴解バイリンガルである子どもに継承語で話しかけるが、現地語を返してもらう場合である。

  • 人といっしょに作業を進めることで、思いもよらないことで「あっ」という気づきが増えたり、エンパワーメントの場になったり、ということも。そのような有意義で驚きに満ちた経験を参加者にしてもらうことが、運営者側として目指したい目標の一つかな、と思った。

 
関係性マップ活動に関するディスカッション

今回のワークショップを通して、参加者からの気づきや質問が挙げられました。それらをもとにして3日目のはじめに行われた、企画チームメンバー3者(舘岡、三輪、深澤)による公開ディスカッションの内容を掲載します。


<1>関係性マップの描き方について

「人を表す色」

 人の名前を書くポストイットの色は、書かれた人の第一言語の色を選択します。それに対し、ダブルの子どもや複数言語話者をどのような色で表せばいいかという質問がありました。場合によっては人を表す部分の色はなくてもいいかもしれません。関係性マップで表すものとして、人と自分を結ぶ線とその色のほうが大切です。線の距離や色や太さで関係性が表せます。そのように人と自分との関係性を描くことが一番大切です。



「線の方向性」

 母親が日本語で話しかけるが子どもが現地語で答えるなど、やりとりの際に産出と受容でことばが異なる場合があります。その場合は矢印と色で表してみることもできます。自分が描きたいことを描けるようにすることで工夫が生まれてきます。




<2>関係性マップに描くものとは?

 関係性マップに人以外にTVやYouTubeなども含めるかという質問がありました。当研究会では、人との「関係性」を表すために関係性マップを使用しています。人とことばのやりとりをするのは、「ことばを上手にする」ためではありません。生きるためには人と関係性をつくっていかなければならず、関係性を作るためにことばを使うという経験をしていくということではないでしょうか。このように考えてみると、TVやYouTubeを見ることは、関係を作る/作り続ける経験とはならないと思います。

 この関係性マップの焦点は、どのような人と関わりながら生きているのか、どのような人と関係性を構築・維持しながら共に生きているのか、そんなことを意識化することではないでしょうか。ことばの獲得や成長においては、「この人と話したい」「この人と関わり合いたい」というような「人との関わり」が重要で、愛着関係を持った人との間でことばは成長するのだと考えています。

 これまでの活動では子どもがその社会で生きていくための言語使用を見るときには、関係性を大切にしようとしていました。子どものことばは関係性の中で育つものです。年少者を見るときには、「人」との関係性がいいのではないでしょうか。

 以上の観点に立って、さらにそれぞれが自分の実践の場に文脈化して選択していくことが重要だと考えています。


<3>関係性マップ活動によって生まれるもの

 実際に子どもの関係性マップを描いた過去のJMHERATのワークショップの事例から、関係性マップ活動がどんな観点を生み、どのような行動に繋がったか紹介しました。

 一つ目は親の事例です。言語発達が遅れていると心配していた父親が、子どもの関係性マップが描けなかったことから子どもと関わる事が重要だと参加者から指摘され、言語発達における人との関わりの視点が生まれました。

 二つ目は教師の事例です。日本からタイに移動し、タイ語が伸びず、日本語も喪失し始めていた中学生の関係性マップを教師が描きました。マップを描くことで、この生徒との会話に学校の友達や先生の話が出てこないこと、個人的なつながりを示すはずの固有名詞が出てきていないことに気づきました。そして、この生徒の問題は関係性の貧困にあると気づき、自分の仕事は「日本語を教える」というより、「子どもが愛着関係を築ける相手になる」ことではないかと考え、タイ人教師にも呼びかけ「関係性を増やす」という行動につながりました。

 この時間ではこの2つの例を挙げ、言語発達に関心があっても関係性には関心が至らない親や教師にとって、関係性マップ活動が保護者や教師など子どもの支援に関わる人に対し、重要な視点を与えてきてくれたことを紹介しました。

次回は、第9回複言語・複文化ワークショップ「運営者向けワークショップ」報告③、言語ポートレート活動の報告となります。ぜひご覧ください。


第9回複言語・複文化ワークショップ報告のすべてはこちらから

終了報告はこちら

1日目言語マップ体験の記事はこちら

2日目関係性マップ体験の記事は本ページ

3日目言語ポートレート体験の記事はこちら

4日目複言語・複文化ワークショップ各自の現場への文脈化に向けての記事はこちら

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