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Family Language Policyとは(202204セミナー18)


JMHERAT 第18回セミナー

親と子の言語政策 ファミリー・ランゲージ・ポリシー


2022年4月2日(土)に開催した第18回セミナーの内容をこれから数回に分けてご報告します。

前回は参加者の感想を一部取り上げて終了報告をしましたが、今回はセミナー特集の経緯とコメンテーターの真嶋潤子氏のご講演について掲載します。


 

なぜ「ファミリー・ランゲージ・ポリシー(Family Language Policy=FLP)」をテーマにしたのか


 2021年8月開催のワークショップ(以下、「WS」)では、本研究会で初めての親子WSで、親と子がそれぞれの言語ポートレートを作成し、共有しました。初めて家族単位の活動をしたことによって見えてきたものがありました。それは、親と子の言語意識や認識のずれと重なりでした。また、タイ国内に限らず、香港・台湾・イスラエルに暮らす家族が参加したことにより、居住国の社会的影響が言語についての考えや家庭内言語実践などに影響を与えることが見えてきました。

 そこで、社会的接点の最小単位である「家族」を単位に言語について考える「ファミリー・ランゲージ・ポリシー(Family Language Policy=以下、「FLP」」の観点で、言語をめぐる親と子、社会との関係を考えていきたいと考えました。


 ランゲージ・ポリシー(=言語政策)は「国」の言語政策をイメージしますが、それだけでなく学校や教室、そして家族にもあります。日本国外の日本につながりのある家族はどのような理由や事情で子どもの使用言語や学校を選び、どのような言語の伸長を望んでいるのでしょうか。それぞれの家族には、それぞれの事情や信念のもとFLPが立てられているはずです。それを知ることが、複数言語環境で育つ子どもの成長を支え、家族の支援策を考えるために必要だと考えました。


コメンテーターによるFLP概説「FLPとは」

ここからは、真嶋潤子氏(大阪大学名誉教授、ケルン大学客員研究員)によるご講演「FLPとは」で当日にお話しなさったことをご紹介します。




FLP研究について

 FLPは、子どもの言語習得+言語政策、両方の領域からの研究の蓄積を合体した、応用した研究分野です。子どもの言語習得を密に細かに精緻に見るミクロレベルから、国や地域そしてあるいはグローバルなマクロレベルの政策の話をするところまで、現象の相互作用の考察をし、広範で多彩な課題に取り組んでいる非常に動いている、ホットな話題だと思います。

 FLP研究の動向としては、子どもの言語力はどのようになっているのか、タイで子育てにご尽力されている保護者の皆さんの悩みや選択に関して、非常に興味を持っている方が多いと思いますが、実は各地で持たれている問題や疑問、困難点というのは、世界各地で共通している部分もあれば、そうでないところももちろん大きいです。

 それから、以前は子どもの言語力の結果に着目する研究が多かったところから、バイリンガリズム・マルチリンガリズムをプロセスや経験として見る方向へと動いて、発展していっているようです。

 また、”Family”というときに、西洋的な核家族モデルにおける親の視点を中心とした研究から、当事者である子どもの視点を反映した研究が増えてきています。

 今回の二つ目のご発表でもありますけど、Child Agency=子どもの当事者性=子どもの主体性の視点や非西洋的文脈におけるFLPに着目した研究も増えてきています。


FLP研究の課題や成果の特徴

 FLPは言語文化の多様性に直結するものであって、”Family”こそが子どもの言語習得に多大な影響を及ぼす動的なダイナミックな場であるということが言われています。それから、言語少数派の家庭内でいかに容易に現地の主流は言語への移行が促進されてしまうかということも指摘されています。これは、いいかどうかの判断ではなく、事実での話です。

 また、個人や一家庭のレベルを超えて、社会集団的・国際的集団の要因との相互作用が見られると指摘された成果も多いです。それが、コロナ禍の現在直面している様々な不安や不均衡な社会状況に向き合うということがあります。特に、King先生がコロナ禍の時代になり指摘されているのは、子どもたちがロックダウンした地域に学校があると、家庭で密に過ごす時間が増えている事例が多くなり、それがどのような影響を今後もたらすことになるのかということです。このような状況でインターネットだとか技術の進歩によるいいことも多いのですが、それがみんなにまんべんなくアクセスできるようになっているわけではなく、非常に不均衡であるという懸念が指摘されています。今後これまでのFLP研究は、批判や限界を乗り越えて、ポストコロナ時代に向けて発展すべきだと思います。(MHB研究第18号にはKing先生の論考が掲載されています。)


言語政策Language Policyから

家族の言語政策Family Language Policyへ

 Spolsky(2004)では、言語信念(Language Belief)、言語実践(Language Practice)、言語管理(Language Management)、この3つの側面が重要だと指摘されています。言語管理、マネージメントという言葉を、Curdt-Christiansenの図でも使っていますが、一部この後で出てくる図では、Language Interventionという言葉を使っていることもありますが、Spolskyに従うことにします。この青くなっているところが、Language Policyだと旧来言われているところです。その周りにあるのが、保護者の背景であったり、家族のおかれた環境、社会経済的な文脈、政治的な文脈、言語的な、文化的な文脈があることが示された図です。


 今日この後のそれぞれのご発表を理解するときに有効だと思われるのが、Curdt-Christiansen・Huang(2020)のFLPのダイナミックモデルと言われるものです。真ん中には、上記の3つの概念があり、そこに内的要因、外的要因というのが関わっていて、それらが相互に作用しているというものです。この後の各ご発表では、子どものエージェンシーの話や、親からの影響力の信念、家庭のリテラシー環境、継承語の扱いに関する親の考え、ビリーフ、信念、価値観の問題、そして、実践について話がある思います。この図は、それらが外部要因、内部要因として親の信念に影響しているということを示しています。そのため、物事がものすごく複雑に、重層的に、多層的に、しかもそれぞれの項目が相互に影響し合い、変化し、それによって色々なところが変わっていくといった、決して静的に静かなものではなく、動的なものだと捉えて、ダイナミックモデルだと言われているものだと理解しています。

 本日は色々と皆様に教えて頂きたいこともたくさんあります。どうぞよろしくお願いいたします。


参考文献

・Curdt-Christiansen, X. L. (2009) Visible and invisible language planning: Ideological factor in the family language policy of Chinese immigrant families in Quebec. Language Policy 8(4), 351–375. https://doi.org/10.1007/s10993-009-9146-7

・Curdt-Christiansen, X. L. (2014) Family language policy: Is learning Chinese at odds with learning English in Singapore? In Xiao Lan Curdt-Christiansen & Andy Hancock (eds.), Learning Chinese in diasporic communities: Many pathways to being Chinese, 35–58. Amsterdam: John Benjamins. https://doi.org/10.1075/aals.12.03cur

・Curdt-Christiansen, X. L. & Huang, J. (2020) Factors influencing family language policy. In A. Shalley, & S. Eisenchlas (Eds.), Handbook of social and affective factors in home language maintenance and development, 174-193. De Gruyter Mouton. https://doi.org/10.1515/978150

・King, K.A. (2022) Family language policy: growing pains and new directions in COVID times, 『MHB研究』18号 [Journal of the Japanese Society for Mother Tongue, Heritage Language, and Bilingual Education. Volume 18].

・King K.A., Fogle L.W. (2017) Family Language Policy. In: McCarty T. & May S. (Eds.) Language Policy and Political Issues in Education. Encyclopedia of Language and Education (3rd ed.). Springer, Cham. https://doi.org/10.1007/978-3-31902344-1_25

・Spolsky, B. (2004) Language Policy. Cambridge University Press.

 

 今回は、当研究会運営委員がそれぞれチームに分かれて、日本につながる家族のタイ国内における学校選択アンケート調査から見るFLP、タイで生きるタイ日国際結婚家庭の子どもへのインタビュー結果から見る子どもの言語政策、そして、タイとは異なる社会環境である香港で子育てをする日本人家庭の親へのインタビュー結果から見るFLPについて、報告しました。運営委員が調査し、分析し、調査結果を報告するという初めての試みでもありました。この後、3回に分けて、それぞれの調査に関する報告を掲載していきたいと思います。

 それぞれの発表では、上記のCurdt-Christiansen・Huang(2020)「FLPダイナミックモデル」で示されている言語イデオロギーに影響を与える外的要因と内的要因に加え、松岡・深澤(2022)で提案された「社会生活的要因」(外的要因)と「言語能力評価要因」(内的要因)、そして本研究会が本セミナーのために各チームでの分析過程で新たに必要だろうと判断した「将来の見通し要因」を含めて、これらを分析の枠組みとしました。以下の『「FLPダイナミックモデル」の要因詳細』の表を参考に、この後に掲載が続く各発表の報告をご覧ください。

参考文献

・松岡里奈・深澤伸子(2022)「Family Language Policy形成に影響を与える要因に関する一考察―タイに生きる泰日国際家族A家の父・母・子3者の語りから―」『MHB研究』18, 48-64.

・Bourdieu, P. (1996). Distinction: A social critique of the judgement of taste. Cambridge, MA: Harvard University Press. (Orig. pub. 1979.)

・Curdt-Christiansen, X. L. & Huang, J. (2020). Factors influencing family language policy. In A. C. Schalley, & S. A. Eisenchlas (Eds.), Handbook of social and affective factors in home language maintenance and development (pp.174-193). De Gruyter Mouton. https://doi.org/10.1515/9781501510175-009

・De Houwer, A. (1999) Environmental factors in early bilingual development: The role of parental beliefs and attitudes. In Extra, G. & Verhoeven, L. (Eds.), Bilingualism and migration. 75–95. Mouton de Gruyter. https://doi.org/10.1515/9783110807820.75


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