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家族の言語ポートレート「みんなそれぞれ違っていた」(202108WS08)

親と子どもの話を聞こう ー複言語・複文化を生きる語りー

第8回複言語・複文化ワークショップ

親子で言語ポートレートを描いてみよう


2021年8月22日(日)に終了した第8回複言語・複文化ワークショップの報告です。

今回の報告では、参加12組のうち、掲載許可をいただいた方の中から2組の親子が描いた言語ポートレートと、ワークショップ後に書いた感想シートから気づきを抜粋してご紹介します。そして、最後にまとめとして、舘岡洋子氏のコメントを掲載します。

 

【言語ポートレートの紹介】


【今回のワークショップの意義】

 

【言語ポートレートの紹介】


Aさん親子


香港在住

Amさん(親)、Akさん(子・13歳)、Ayさん(子・10歳)


Akさん(子・13歳)の言語ポートレート

  • 言語ポートレートに描かれた言葉 日本語、英語、中国語/広東語、タガログ語、ドイツ語、インターナショナル語(Akさん造語)

  • 言語ポートレートを作って気づいたこと、感じたこと 僕のポートレートだけみんなよりこわかった。アクティビティがあって思ったより楽しかった。左手はゲームの他にあまり使わないことをそう言えばそうだと思った。頭には中国語があまりなかったけど、体には中国語がたくさんあることがわかった。香港に住んでいるから、中国語があたりまえになって、あまり頭で考えなくなった。

  • 他の人の言語ポートレートを見たり話し合ったりして気づいたこと、感じたこと みんなの言語ポートレートがカラフルでおもしろかった。服とかメガネとか靴とか書いている人がいておもしろかった。僕のは内臓とかかいてちょっと詳しすぎた。

  • 親(Amさん)の気付き・感想 インターナショナルスクールに通っているため、英語のほうが圧倒的に強く、中国語に関しては本人はあまり意欲も関心もないだろうと(私が勝手に)決めつけていたのですが、言語ポートレートで、青(広東語、中国語)が全面に出ていて、とてもびっくりしました。親が認識するその子の言語能力と、本人の複言語に対する認識は必ずしも一致しないということに気づきました。


Ayさん(子・10歳)の言語ポートレート

  • 言語ポートレートに描かれた言葉 日本語、英語、広東語、北京語、タガログ語、ハワイ語、スペイン語

  • 言語ポートレートを作って気づいたこと、感じたこと 色を体のどのぶぶんにつけるかがむずかしかったです。毎日こんなにいろいろな国の言葉を使っていることがびっくりした。いろいろ色をつけてどんどん身体中がカラフルになってきたことが楽しかった

  • 他の人の言語ポートレートを見たり話し合ったりして気づいたこと、感じたこと 左手が使いにくいから、それを使いにくい言葉にしている人がいて、クリエイティブだと思った。みんな毎日いろいろな言葉を使っているのがわかった。

  • 親(Amさん)の気付き・感想 やはり英語が一番に描かれるだろうという私の予想とは違い、カラフルな言語ポートレートになり驚きました。その中には、ほとんど日常的には使っていないスペイン語とハワイ語(夏休みの期間言語自習アプリで遊んでいるだけの言語)もありました。きっと「(アプリで習ったから)少しはできる」「もっと知りたい」という気持ちがあったのではないかと思います。 二人ともヘルパーさんから聞くタガログ語も、自分の中の言葉として認識していたのにも驚きがありました。「ありがとう」「おはよう」「きれい」「ハンサム」「臭い」などのごくごく限られたタガログ語ですが、親しい人との関係性の中で使う言葉であればその言語の能力にかかわらず、本人たちの中で複言語の一つとして認識されるのかもしれないと感じました。


Amさん(親)の言語ポートレート

  • 言語ポートレートに描かれた言葉 日本語、広東語、英語、タイ語、マレーシア語

  • 言語ポートレートを作って気づいたこと、感じたこと 初めて言語ポートレートをかいたのですが、子供たちに対しても、また自分自身に対しても意外な発見があって楽しかったです。また言語ポートレートをかきながら、親子間で雑談する時間もとても楽しく幸せなひと時でした。(いつも日本語の宿題や、学校の英語・中国語の課題に関して、言い合いになったり、はっぱをかけたりする時とは全く対照的な、ストレスフリーのリラックスした時間をすごすことができました。)

  • 親子で一緒に活動してみて、親が気づいたこと、感じたこと 普段改まって子供たちにどの言語にどんな気持ちを持っているか聞いたことがなかったので、とてもいい機会になりました。学年が進むにつれ、学習言語である英語がどんどん強くなり、日本語が”弱い”立場になっていっているのでは、という自分自身の漠然とした不安を払拭させてくれるようなインパクトのあるワークショップでした。また、英語、日本語だけではなく、子供達に豊かな言語レパートリーが広がっていることに、びっくりするとともに嬉しく思いました。

  • ワークショップ後の子どもの様子について ワークショップ終了後、子供達の様子に特に変化はまだありませんが、ワークショップ最中に、日本語を使って自分自身のことを話したり、それに対して相手が理解を示してくれたりしたことで、日本語の使用について少し自信を持てたのではないかと思います。普段、家族や親しい友人家族以外に、知らない方の前で日本語を使う機会がほぼないので、貴重な機会になったと思います。

担当ファシリテーターからの声

描いているうちにごく自然に家族内共有が始まって、こちらのプログラムをどんどん先行して進んでいて、しかもとても楽しそうだったのが印象に残っています。


 

Bさん親子


タイ在住

Bmさん(親)、Bkさん(子・16歳)、Byさん(子・13歳)

Bkさん(子・16歳)の言語ポートレート

  • 言語ポートレートに描かれた言葉 日本語 英語 タイ語

  • 言語ポートレートを作って気づいたこと、感じたこと 遠くから見て上半身に色や説明がないことに気がついた。なぜだろう

  • 他の人の言語ポートレートを見たり話し合ったりして気づいたこと、感じたこと ワクチンがドイツだった子のが面白かった。同じタイに住んでて、タイ語や日本語、英語を話すけど色の塗り方が色々で見てて楽しかった。同じグループで英語が上手だった人が羨ましかった。

  • 親(Bmさん)の気付き・感想 兄妹間、かなり似たような言語ポートレートが出来上がるのかと思っていましたが、思考(脳)の言語の内わけや、英語のとらえ方に違いがありました。息子(Bkさん)は英語を”泣きの英語”やこの先大切になるからいつかやらないといけない大変な言語として緑にしていました。


Byさん(子・13歳)の言語ポートレート

  • 言語ポートレートに描かれた言葉 日本語、タイ語、英語

  • 言語ポートレートを作って気づいたこと、感じたこと 楽しかった。

  • 他の人の言語ポートレートを見たり話し合ったりして気づいたこと、感じたこと たくさんの人のが見れて良かった。母(Bmさん)の武器ヤリや、体中にハートが散らばっているのが面白かった。

  • 親(Bmさん)の気付き・感想 英語の捉え方が息子(Bkさん)と違い、娘(Byさん)はアクセサリーに例え今後自分次第でつけ外し自由(増やすこともできる=勉強次第)とポジティブに捉えていることに気づきました。二人の体に心臓がなかったので聞いたところ、あえて描かないという選択をしたそうです。描いてしまうとどちらかに決まってしまうし、内わけも決められない。心臓=大切なもの。大切なものは、体のほかの部位で表現できたから、と色々話しをしながら二人の考え方が分かりました。​​


Bmさん(親)の言語ポートレート

  • 言語ポートレートに描かれた言葉 日本語、タイ語、英語

  • 言語ポートレートを作って気づいたこと、感じたこと ステイホームでずっと家におり、日本語のピンクが多くなるだろうと思っていました。実際書いてみると自分の中で苦手な言語として意識しているタイ語の青が、多く色付けされ改めて自分の中にある言語を可視化するよい機会になりました。

  • 親子で一緒に活動してみて、気づいたこと、感じたこと 家族でオンラインワークショップ参加、言語について語る、他の方と共有、すべてが初めてのことで緊張していましたが、子ども達は作業をし始めるとどんどん描き始め Padlet(※1)へ送った後も 更に描き加えたりとても真剣に向き合っているのがうかがえました。機会があれば 数年後また描いてみたいと思いました。

  • ワークショップ後の子どもの様子について気づいたこと 息子はワークショップが終わってからじっくりと娘の言語ポートレートをみて、右手(利き手)と左手に分けて描いているのが面白いと言い、自分のものとの違いを探していました。

  ※1参加者の言語ポートレートをPadletというアプリで共有しました。

 

【今回のWSの意義】


舘岡先生まとめ

〈個人の複言語複文化性〉

  参加者のポートレートを見ると、本当にいろんな色が混ざっていて、モノリンガルの私としては驚くばかりです。複言語複文化というのは、多言語多文化「multi(マルチ)」に対して「pluri」という造語です。「multi(マルチ)」というのは塊、つまり、日本語の社会とか英語の社会とかタイ語の社会など、複数のグループが共存していることを指していますしかし、それでは、移動が多い現代においては一人一人のことが説明できないということで、「pluri」という言葉が出てきたと思うんですが、それはやはり、一人一人が持っている多様な資源を大切にしようということです。参加者のほとんどの人の頭の中は最低3色です。タイ語と日本語の2色の方もいらしたかもしれないですが、英語も混ざって3色が多くて、4色5色の方もいらっしゃって、頭の中や口や耳はほとんどの方がカラフルでした。そして面白かったのは、右手と左手と描き分けているんですね。右手が利き手だから、今はタイにいるからタイ語を使うとか、ゲームをやるからどっちの言葉でどっちの手を使うとか、それが私には新鮮で面白かったです。あとアクセサリーなどつけたり外したりできるのが英語とか、なるほどと思いながら見ていました。

 この個人の一人一人の中の多様性を認めるというのが複言語、つまり「pluri」の主張です。今回初めてファミリーで参加していただきましたが、やはりそのファミリーの中でも、お父さんとお子さんのポートレートが違ったり、お母さんとお子さんのポートレートが違ったりしました。あとお子さんの中でもお兄さんと妹さんは全く同じではありませんでした。複言語を家族単位で見ると、同じような環境のように見えていても同じではないことがわかって、大変興味深く思いました。今まで家族単位でというのはあまり見たこともなかったですし、そういう発想でワークショップをしてきませんでした。発想はあったかもしれないけど機会がなかったと思うんですね。


〈家族の複言語複文化性〉

 今回気が付いたのは、一人一人の複言語が多様で、その多様性を重視して豊かなリソースがあると考えると、それがファミリーで集まったらもっともっとリソースフルだなということです。つまり足し算にすると、7つ8つの言語をカバーするということで、すごいことだなと思いました。そういう家族というのは、これから家族で協力すると他の家族ができないような多様性の中での力を発揮することができるなと、つくづく思いました。

 それから、このようなワークショップは、とても可視化の意義があると思いました。可視化というのは見えるようにするということです。普段、お子さんとたくさん話していらっしゃるでしょうけれど、こうしていろんな色の塗り分けを横で見ていると、ああそうなんだと、お子さんのいつも見ているのとは違う面が発見できるでしょう。子どもさんが大きくなってくると、なかなかみんな忙しくなると思いますけど、たまには親子や家族で、こんなことをやってみるのは素敵なことだなと思います。お子さんが成長するにつれて、ポートレートもどんどん変化していくのかもしれませんね。

 

JMHERATより

 今回初めて親子で参加するワークショップを開催し、親子が一緒にそれぞれの言語ポートレートを描きました。「ママといっしょだからおもしろかった」(Mちゃん8歳)、「やってみたら楽しかった」(Iちゃん7歳)など普段ひとりではワークショップに参加できない年齢の子どもたちも参加できました。

 今回のワークショップでは、運営者であるJMHERATの運営委員も言語ポートレートを描いて持参し、参加者と運営者ではなく「私たち」のワークショップという場になるよう意識しました。そして、少人数のグループで、それぞれのグループに合わせて緊張させないような雰囲気づくりをしました。

 ワークショップでは、言語ポートレートを描くことで自分でも気づかなかった複言語・複文化を生きる自己認識を持つことを目的としていますが、今回は親子で行ったことで、親が子を、子が親や兄弟姉妹を、そして他の親や子それぞれの自己認識を知ることができました。

 また、タイ、香港、台湾、イスラエルと異なる環境と、7歳から16歳まで広い年齢層の子どもたちとその親が集まった今回のワークショップは、それぞれの複言語・複文化の現状も自己認識も実に多様でした。それは、「みんなそれぞれ違っていた」(Iちゃん7歳)という感想にも表れています。この多様なみなさんの現状と言語・文化意識をさらに深く知りたいと思い、ワークショップ終了後から参加者に少しずつインタビューをしています。この聞き取りの成果は2022年3月のセミナーで報告します。


タイにおける母語・継承語としての日本語教育研究会(JMHERAT)

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