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子どもにタイ語で話す意味の共感ー日本に生きるタイ人パートナーの変化ー(20230805JPWS01)

第1回日本部会ワークショップ

語ってみよう、私たちの日本生活

ータイにつながる家族の居場所ー


 今回は2023年8月5日(土)に行った第1回日本部会ワークショップの最終記事として、ワークショップの終了後の感想や、参加した夫婦によって語られたその後の変化を中心にご報告します。

※参加者(仮名):

・ホームディー夫婦(夫:ベンツ(タイ)・妻:りり(日本))

・千葉夫婦(夫:まさき(日本)・妻:オーイ(タイ))

 

事前に夫婦でいっしょに言語マップを描いてみた!

 今回の言語マップ活動では、夫婦で言語マップを作成しておくという準備過程を設けました。夫婦で言語マップを描くという協同体験では、個人の過去の記憶を呼び起こすだけでなく、夫婦の歴史を振り返ることもできたようです。また、夫婦で互いの言語マップを見ながら作成する中で「結婚のところには”幸せシール”を貼ったらいいのよ~笑」のように夫婦の自然なコミュニケーションが生まれ、過去の「幸せ」と感じた時期を互いに再認識し、それが夫婦関係の再構築にもつながったと考えられます。

 言語マップ活動は、時に過去の辛かった経験も呼び起こします。しかし、今を共に生きる夫婦が協同して活動を行うことにより、その辛かった経験を前向きに捉えて意味づけていくことが可能になるのかもしれません。

 夫婦は互いのことを知っているようで知らないことも多いと思います。今まで知らなかった一面を窺い知ることができるこの言語マップ活動による経験は、互いの気づきや理解の一歩になるのではないでしょうか。

夫が積極的に息子にタイ語で話すようになった!

 ここは、参加者でもあり運営委員でもある、りりが当事者として書きたいと思います。


 私は運営委員となって約10年が経過しますが、今回のような夫婦ワークショップは初めてでした。しかも、自分と夫が参加者となるというのも初めての経験でした。さらに、ワークショップ準備段階では運営委員として活動し、当日は一参加者として参加するという立場の変動も初めての経験でした。ワークショップ終了後、普段からHPの記事係もしているため、「日本部会報告も私が書き始めますね」と言って書き始めたものの、今回の記事作成は非常に難儀しました。それには、私自身がタイ人夫を持つ当事者としての姿勢と、運営委員としての第三者的姿勢の往還が関係していたように思います。当日は完全に一参加者としてその場にいたため、私は当事者としての気づきや感情の高ぶりがありました。しかし、記事作成はそこから一歩引いて、客観的に起きたことを記録し、捉えなおし記述していくという作業のため、なかなか執筆の手が進みませんでした。ですが、この立場の往還の体験そのものを書き残しておくことにも意味があると思っています。


 ワークショップの参加について夫に話した当初は、夫は「なぜ自分が?何も悩んで生きていないけど?」と言っていました。開始直前も、「本当に、俺は参加するの?」とまだ自分の参加そのものに疑問を抱いていました。しかし、開始直前にパソコン画面越しにB夫婦と対面し、タイ語で自己紹介や、年齢・呼び名の確認(タイ文化では年上か年下かで呼びかける人称が変わるため)、フリートークを始めると、普段シャイな性格の夫ですが笑顔で生き生きと話す姿が見られました。ワークショップ中は、夫が初めて自分の日本生活の心境(タイ語を外で話すことが恥ずかしい等)を吐露し、私は「え!そんなこと思ってたの?!」と本当に驚きました。夫自身も「こんなこと初めて言ったわ、やっべ。笑」と笑っていました。このように、普段自分の内なる思いを滅多に話さない夫の心の扉を開けたのは、このワークショップの場の強みでしょう。その上、ネガティブな気持ちの吐露であっても、それに共感する仲間(オーイさん)がそこにいたこと、そして「その気持ちを話してくれてありがとう、でもこのように捉えなおしてみたらどうだろう?」と、自分の新たな生き方・あり方を示唆してくれる第三者としての研究会の存在があったため、夫は非常に前向きに捉えることができたのだと思います。


 ワークショップ終了後、2時間ほどして、実家に預けていた息子が家に帰ってきました。すると、突然夫が積極的にタイ語で息子に語りかけるようになりました。それまでの2倍、いや3倍以上だと思います。しかもタイ語を使用しているときの夫の表情は、非常にハツラツとしていて、悩んでいた・もやもやしていた過去から一歩抜け出したように感じ取れました。数日経った今でも、夫の息子へのタイ語で話す姿勢は変わっていません。夫自身が「子どもにタイ語を使用する意味」を実感したのだと思います。このような大きな変容は日常的には多く起こることではないと思いますが、B夫婦のほうでも、「(オーイのほうには)目に見えての変化はなかったものの、同じような悩みを共感できたことが良かった」と言っていました。「もともと積極的に人と関わるタイプの性格ではないので、胸の内を語れたのは初めてだと思います。」と、ワークショップの場で語り合って共感し合えたことに意義を感じているようでした。

 次回の関係性マップ活動ではさらに語り合いが盛り上がることでしょう。次回も夫婦で楽しみにしています。

研究会介在の意義

 日本でタイ人が受ける眼差しの問題、日本で暮らす多くの人が、日本は単一言語世界であると考えていることから起こると思える問題など、私たちがフィールドとしてきたタイに住む日本人親からは語られない語りがありました。またその問題は自分個人の問題として語られることも双方共通してありました。それは「個人の問題ではない」ということを、普段共に生きる夫婦間では納得し理解するのは難しい場合もあるかもしれませんが、第三者である研究会や他の参加者の口から聞くこと、ワークショップの他の参加者からの意見としてインプットされることにより受容につながるのだと思います。ここに研究会介在の意義を感じました。

 他にも、親より子どもが「日本語・日本文化の知的/経験的優位者」になった時にこそ「複言語・複文化能力観」による観点が重要なのだと思います。次回のワークショップでは、関係性マップ活動を行う予定ですが、その際にはあらためて「複言語・複文化」について皆で共有したいと思います。

 

 今回は当研究会としても初めての「夫婦参加」、小規模ワークショップでしたが、だからこその豊かな語りが生まれました。当研究会における一つのワークショップの形として刻み、次に進んでいきたいと思います。


 

第1回日本部会ワークショップ関連の報告はこちら


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