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ある国際結婚家庭の子どもたちの成長―Sさん家族の29年―3人の子どもたちの事例から考える(201406セミナー09)

みつめよう子どもの姿、考えよう子どもの現実


『ある国際結婚家庭の子どもたちの成長―Sさん家族の29年』   ―3人の子どもたちの事例から考える― 第1弾


2014年6月29日(日)に行ったセミナーの報告です。このセミナーは事例提供者として、松井育美氏(日本語教師・大学非常勤講師)に来ていただきました。


本ブログ記事で告知してきたように、次回11月23日(日)のセミナーでは、6月に続き松井氏に来ていただき、氏が関わってきた国際結婚家族S家の事例をとりあげます。事例を元に、複文化環境で育つ子ども達に起こりうる問題と必要な支援について参加者と考えていきます。 S家の事例は、国際結婚家族に起こりうる問題を多く含んでいます。6月のセミナーでは、29年分に渡る大量の情報の中から、多文化多言語環境で育つ子ども達について考える際、どんな点に留意すべき点なのかグループでディスカッションを行いました。国際結婚の当事者、幼稚園の先生など、立場の異なる複数の視点を通して、次のような論点や疑問点が出ました。

 
■ディスカッションで出た論点

1.日常的に使っているのに・・・?

  • 母親とは常に英語を話していたのに、英語力の低さが仕事の障害になったのはなぜか?

    • 日常的に話したり聞いたりする力と、仕事や学校で使う言語の力はどう違うのだろうか。

  • 次男は日本人学校に通っていたのに、日系の高校になぜ進学できなかった。

    • 第一言語のはずの日本語での学力が伸びなかったのはなぜか?母親が日本語を話せないから?

2.周りの大人は気づいていなかったの?

  • 父親は学校行事や保護者会に全て参加し、家庭的な父親と言われていた。しかし子どもの教育について学校と協力したり、重要な局面で頼りにされたりしていた様子がみえない。

    • 面談に参加していた=子育てに参加していた、ではないのでは?

  • 母親は日本人学校時代は、父親に任せきりで子ども達の学習に全く関与していなかった。

    • 日本語話者ではない母親は、学校のことを息子と共有できるベースがなく、説明されても自分にはわからないとあきらめてしまっていたのではないか。

  • 日本人学校の教師は次男の学習の遅れをどう認識していたのか?

    • 母親が日本人ではないから日本語での学習が遅れても当然と考えていたのでは?また、問題の認識を保護者と共有できていたか。

3.子どもたちの進路は誰が決めた?

  • 両親共に子どもの将来が見えておらず、進路決定の度にその場しのぎの選択をして、息子はそれに振り回されていたように感じる。

    • 両親は子どもの将来像を共有できていたのか?将来の見通しを持って学校や教育言語を選択していたのか。

  • 子ども達、長男・次男は特に、自己決定の機会が少なかったのではないか。

    • 母親は高校進学のときは、息子の希望を聞いていたのか。

    • 逆に、長女はなぜインター校転出を自分の意志で決断することができたのか。

4.家族の関係は・・・?

  • 家族仲は良いと言っていたが、子どもが感情を爆発させるのはいつも家庭の外だった。子どもは不満や不安があればまず親にぶつけるのでは。

    • 本当に信頼関係を築けていたのだろうか?

  • 子どもは幼くても、親が周囲と違う言語の話者であることに気づき、人前で日本語を間違えるのを恥ずかしがるようになる。

    • 子ども達にとって母親は頼りになる存在だったのか?それとも、自分が気を遣ってあげなければいけない相手だったのか?

  • 長男、次男は特に人間関係の構築が苦手そうだった。

    • 積極的に人と関わりを持つには、当人の意思が不可欠だが、そのためには幼い時に周囲と濃密なコミュニケーションを取れていることが必要ではないか。

  • 事例からは、子ども達は何事に対しても強い意欲や意志があったように感じられない。意欲を持てるためには、まず自分に自信があることが必要ではないか。

    • 子ども達は自分に対する基本的な自信や、自己肯定感を持っていたのか?

    • 自信や自己肯定感は親子や夫婦のかかわりの質的な豊かさに支えられると思う。この家族にはそういう豊かな関係があったのか?

6月のディスカッションでは、なぜ子ども達の学力、英語力が十分に育たなかったのか、という疑問から、親や教師が子どもの学習にどう関わっていたのかが問題になりました。そして、家族の関係性そのものがどのようなものだったのか、という疑問が出ました。 11月のセミナーでは、主に「関係性」という観点から、周囲の人間がどう子どもに関わっていくべきなのか議論していきます。

 
■参加者の感想
  • 多国籍・複数の言語環境であるかどうかに関わらず子供にとって自分のことを自分で決められるかどうかが重要だと感じた。一つの言語のみで育つ子でも同様、親の希望や思いが強すぎると折れてしまう。多国籍家庭ではその子の将来についての悩みが増す分、親の思いが強くなってしまうのかもしれないと1つの考え方が自分の中に出てきた。とても刺激の多い学習会でした。(幼稚園教師)

  • 日本語継承という自分のテーマからすると今日の事例は、母親が非日本語話者であったため自分とは異なる環境だと感じました。しかし、子供の進路・成長を支えるという親の普通的役割について考える良いチャンスを頂きました。学習、ビジネスに使える言語能力に繋げるために小学校高学年から中・高と複言語・海外環境で何をしていくのがよいか。(親)

  • 生活言語能力・学習言語能力をお互い上手に伸ばしていく為には家庭・教育機関の連携がとても必要なのでは?と感じました。(幼稚園教師)

  • 成績がのびない、多言語だから…。イライラが爆発などは全て家族同士のコミュニケーションから出てきていると思う。家族が一緒になって何かをして喜び・悲しさ・嬉しさ・幸せ・辛さ・助け合うことなどすべて夫婦間・親子間の中から学んで基盤が出来ていくのだと思いました。まずは、温かさ・安心感を得て、考えたり意欲的になり学びに繋がっていくことが大切だと思う。(幼稚園教師)



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