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ことばを育てる言語活動実践まとめ(201703S13)

みつめよう子どもの姿、考えよう子どもの現実


子どもを育てる、ことばを育てる ―子どもが自信を持って生きるための言語活動実践―


2017年3月6日に終了したセミナー内容の3回目の報告をします。今回のセミナーでは子どもにとっての体験の大切さが報告されました。そこで、1/2部まとめとして、日常の中の体験とことばについて考えたいと思います。

だれのどんな日常にもある体験をどう言語活動にむすびつけたらいいのか。日常の中の体験を、体験としてどう考えたらいいのか、池上先生に口火を切っていただきました。


 
日常の中の体験とことば

池上:キャンプ体験がありましたが、そういう体験でなければいけないということではありません。例えば家の中で家族と過ごしていても、いつもと違うことをちょっとして、それはどうだったのかそれは何だったのか、それについて今日は誰に伝えようか、そういう風に一つ段差をつけてあげる、そこの中で体験が意味のある体験になる。ただの体験ではなくて、意味のある体験になる。言語生活はそれぞれであって、お料理すると言ったら、お料理するだけで終わりでなくて、その手順についてどうだったのか、お手伝いでやったことがどうだったのか、語り合うことができるかどうか、それは何語で行うのか、それを行った結果、誰に伝えるのか、そこでまたどんどん課題が見つかってくると思うのですが、そのように考えていただければ、体験が言葉に繋がっていくと思います。段差というのは、できること、ちょっと難しい事とか、いつも使っている言葉とちょっと違っている言葉とか、そのように考えると言語活動に繋がっていくと思うのですが。


深澤:いつもやっていたことに、お母さん自身どうやっていたのかなと思うことが段差になりますね。


石井:ある日本の親子教室の例ですが、親子でホットケーキを作りました。作る段階でもいろいろ計って作りましたが、作り終わった後にも計量器を持ち込んで、自分が選んだホットケーキがどれくらいの重さなのか、自分で計りました。大きいのを選んだ子どもも、軽かったら変えてもいいことにしたら、子ども達は必死に目盛を読んでいた。ですけれども、家の中に計りというスケールを見たことがない子や、日常の中で計るという行為を見たことがない子どももいます。学校に来て教科の中で初めて単位とかに触れたときに、家の中でそのような体験があるかどうかで、ものすごく違いがある。どこかで経験することがものすごく大きな違いがある。アイスクリーム(作り)体験の時、塩を入れた瞬間、0より下にメモリが落ちたことで、初めてマイナスという温度があることを実感したということがあります。アイスクリームはつくらなくてもいいですが、今まで家の中で全部親がやっていたことを、一緒にやってみるとか、こういう経験をしたら子どもが驚く、刺激を受けるということを親たちが知ることが重要です。


日常と学習言語をどうつなげるか

池上:よく教科で使う言葉と家で使う言葉が違うということを言うんですが、教科で使う日本語は必ずしも教科の専門用語だけではないのです。目盛を読むとか計るとか日常のことばです。算数の文章問題には目盛以外にも、「オフロにお水を入れる、止める」などと書いてあります。算数の用語というよりも、日常の用語なのです。「○○を作る」とかそういうことは日本語だけで生活している子どもは日常の積み重ねで身についていることです。しかし、そうではない子どもは因数分解など難しい言葉ではなく、日常的な言葉でつまずいたりするということがあります。語彙の研究などしていますが、複言語で育った子どもの中には日常的な言葉でつまずいている場合があります。ではどうすればいいのか。ではこの語彙を教えようではなく、どうすれば生活の中でその語彙がその子どもにとって意味ある言葉として、大きくなる中で誰かと使っていけるか、ということに尽きるのではないかと思います。それが「体験」ということとの繋がりだと思います。


体験とことば:子どもの言語発達のステップを考えながら

(図を見ながら解説)


【ことばの発達のステップ】

石井:生まれてから幼児期のころは子どもは生活の中で個人的なやりとりを通して、その子にとって必要な言葉を学んでいます。赤ちゃんにごはんをやっているとき、黙ってやっている人はいません。「ごはんたべようねえ」「マンマおいしい?」そういう言葉の中から、ことばと体験はいつも一致して与えられるということを十分やっていくと、外界の体験が音の塊と合致した体験とどんどん吸収されていく。そのように最初のことばの学習はその子が今必要としていること、あるいはその子に声をかけたいという具体的な状況の中で個人的な体験を学びとして言葉を覚えていく。これが基本。これは大人になっても同じ。突然ある言葉が学ばれるわけではなく、ああこのことってこういうんだ、これってこういうんだとそのことに出会ったとき、そのものに触れたとき学ばれていく。言葉だけではなく、言い方もずっと学んでいくことになります。

学齢期になると、かなり組織的体系的に、言語情報を繰り返し教えるということがよくあります。そういう学び方も実体験の中で繰り返し、繰り返し体験するのではなく、組織的体系的に整理したことばのあり方になります。国語が中心ではありますが、各教科でも同じで、その教科特有のことばを学んでいくことになります。その段階では話し言葉が基本ですが、おしゃべりの言葉というのは、ことばの情報以外、相手の顔色、声色などから意味をとっていくわけですが、学校の話し言葉とは質が変わってきます。たとえば整理して話さないといけない。「私は〇〇についてこうだと思います」というように、話し言葉でも違う、どちらかというと書き言葉に繋がっていくような話し言葉が授業の中で起こってきます。

やりとりではなくて、まとまったことを一人で完結させると言語活動が入ってきます。それをたっぷりやっていくと書き言葉にも馴染みが出てきて、書き言葉の質が上がっていく。日常のおしゃべりをいくらしていても、そういう形はでてこない。日本に来た外国人の子どもが日常的にペラペラ喋れても、教科書になると全然分からないということがよくある。ことばの言語活動の質が非常に違うので、ペラペラ喋れる力がついたということがそのまま書き言葉に繋がるわけではない、ということです。

ある程度の年齢にくると上の段階に行くための、リテラシーは読み書き能力ですが、これらのことばを学ぶための準備が始まってきます。それがプレリテラシー。たとえば、文字の世界。文字というのは、一つ一つ順番に覚えたら読めるようになるというイメージを持っている人がいると思いますがそんなことはありません。子どもは自分の名前の一文字から覚えたりします。いろいろな物に書いてあるあるもの(名前の文字)が友達とは違うことを見つけ、これは自分だとわかりそれが自分を表す文字だとわかってくる。そうやって、文字を覚えていきます。



読むという行為、書くという行為の価値がわかること

それよりもっと前に、字が読めないのに「本を読む!」と言って本を読んでいる子どもがいます。それは本を読むという行為をしているんです。字を覚えたから本を読むのではなく、本を読むという行為を先に覚えるんです。本を読む人は、たいてい自分にとってとっても優しくて、大好きな人が、自分が喜ぶこととして本を読んでくれる。それを何回も見ているうちに読むという行為がわかってくる。字は読めないけれども、文字を読む行為に価値があると分かって、読むのですね。


書くという行為も同じです。子どもが「手紙を書いた!」というけれども、実は字が書いてなかったりする。文字ではないのです。それは書くという行為に意味を見出して、書くという行為を真似するのです。それが価値があると思うから真似をするのです。それが重要。そういうことを学んできている子どもは学校で文字を習い始めたときに、「あ、読める」ととても喜んで学習が進む。でも家に文字がない場合もあります。言語によっては、そのことばの子ども向けの本が出版されていない場合もあります。経済的な理由で買えない、親自身も識字能力がないなどいろんな場合があります。でも本じゃなくてゲームや、忙しくてそこまで意識が向かないなど、日本人の中でも、新聞もとっていないなど、文字が家の中に無いというケースがあります。タブレットで何か読んでいたとしても、それは何かを読んでいるように思えない。そうすると子どもが学校に行くまで読むという行為を学ばないということが出てきます。文字を読めるようになったら嬉しいという子どもは、喜んで文字を学びますが、そうでない子どもは文字を一ずつ学んでも喜びに繋がらないし、家に帰って本がない子どもは学校で学んだことを繰り返すということもしないので文字学習はなかなか大変です。むしろ漢字の方が意味や形で覚える。家に帰っても活字がないと繰り返し学ぶというチャンスがないのです。


もし字を教えてもなかなか身につかない場合、文字そのものをぎゅうぎゅうやるというより文字の世界に誘う活動がいいのではないでしょうか。ある先生が大きなかぶの本を「うんとこしょ、どっこいしょ」をみんなと一緒に声をだし(文字が定着しない)子どもを膝に抱いてやって、読むことは楽しいという経験をしていったらぐっと伸びたといいます。 親や教師は、文字を学ぶという時にパーツパーツを教えるということは、特に小さな子どもにとってはとても乱暴なことです。楽しい活動でなければ嫌いになりますよね。もう避けたいとなってしまったら、おしまいです。なにより楽しく、発達の段階に沿った支援が必要です。



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