みつめよう子どもの姿、考えよう子どもの現実
多言語・多文化から複言語・複文化へ タイで育つ子どもたちを、新たな豊かさへ繋げる視点
第1回複言語・複文化ワークショップ報告
講師の感想
2011年8月28日のワークショップに講師として来ていただいた舘岡洋子氏からご感想が届きました。
2011年8月28日(日)、バンコクの日本人会別館にてJMHERATのワークショップが開かれました。テーマは「複言語・複文化」。タイで育つ日本をルーツに持つ子どもたちの親が参加対象者です。ワークショップでは、参加者(親)たちの複言語・複文化について振り返り、さらに子どもたちの複言語・複文化を考えることによって、親たち自身とは異なった経験をしているであろう子どもたちの姿を理解し、子どもの現状と可能性をともに探ることをめざしました。
そもそも、なぜ複言語・複文化なのか。多言語・多文化における「多 (multi)」が社会における多様性をさすのに対して、「複(pluri)」というのは、個人の中の多様性を認めるという考えです。多言語・多文化の社会においては、日本人もタイ人もともに尊重されますが、ひとりの中に共存するものという視点が欠けています。そこで、多言語・多文化から複言語・複文化へと考えを転換することによって、○○人とか○○語というくくりを超えて、ひとりの子どもの中にある多様性、複層性を認め、さらにはそこに可能性を見出して行こうということが今回の企画の趣旨でした。JMHERATがかかわる子どもたちはまさに複言語・複文化の中を生きていると思うからです。
期待していたことではありますが、ワークショップの場では、語るべき豊かなエピソードをもっていらっしゃるお父さん、お母さんたちが主役となり、互いの語り合いの中から多くの気づきや学びが得られたようです。今回、言語マップの作成によりことばの現状が可視化され複言語性がかなり明確に確認できた一方、複文化性への踏み込みにはいまひとつだったと感じています。今後もみなさんといっしょに場をつくりながら、さらに複文化についても取り組んでいきたいと思います。
また、日本から参加した私自身にとって学びとなったのは、今回のワークショップのような場づくりの重要性です。参加者それぞれの背景や経験には重なりと異なりがあり、それを互いにすり合わせる場で、自らの状況を語り合うことによって、自分自身と子どものことを位置づける機会となっていることを感じました。そして、その場というのは、参加者自身が作っているものであること、つまり、参加者たちが提供しているものがリソースとなってほかの参加者の学びに貢献しているとともに、自分たちもそこから学びを得ていることを感じました。与えることと得ることが同時に行われている場であるということです。こんな場づくりが各地で行われるといいなと感じました。